胡蝶之夢

こんな夢を見たい

6月下旬:館山

1週間ぶりに昼に外に出てみたらなんと気温が高いではないか。夜の雨の日が続いていたので全く油断していた。世間は雨で春の陽気を洗い流し、夏に染まる準備をしているみたいだ。そんなことを思いながら外房線から安房鴨川経由で館山まで行った。

 

昼時の駅前にパン屋があったので、昼食にパンを買う。チキン南蛮サンド、丸いフランスパン、メロンパン、もう一つ買ったが何であったか忘れてしまった。車内で食べようかと思ったのだが、想像より乗車客が多く中々食べることが出来ない。結局14時半ごろにスキを見て食べた。チキン南蛮サンドは衣がサクサクしていて、タルタルがしっかり乗せられてうまかった。フランスパンは塩味だ。食べ応えがあり、小麦の風味とほのかな塩味が美味である。メロンパンは普通においしい。だが車内で食べるのはやはりはばかられる。今後はホームの椅子に座って食べよう。

 

夕刻にたどり着く、普段は夕日の美しい海岸らしいが、この日はあいにくの天気となり空は曇りがち。穏やかな波、風に揺れるヤシの木、ベンチに寝転んで空を仰ぐ。大きな雲が流れている。どこにでもある日常が、そこで過ごせば非日常になる。それだけでいいのだ。きれいな夕日を求めてやってきたのではない。行き着けばそこにあるものに惹かれて来るだけだ。

 

渚銀座は静かに潜む。繁華街に100は店があるといったが、情勢的にも流行り辛い。たまたま開いている店に入る。薄くしてもらった焼酎を飲む。ありふれた酒も人と話せば美味い酒。ぼちぼち店主と話していた時そこの店の常連が来た。話題はウイルスで持ち切りだ。この通りがいつからあるかは分からないが、間違いなく街の非日常がそこにある。

 

くたくたな身体には1杯の酒と、少々の食べ物で十分だ。宿に帰れば布団が敷かれている。何をすることもなく、全く普通の布団に入り寝た。つかの間の休み。翌朝の食事も旨かった。魚と納豆と金平ゴボウとみそ汁。ありふれた食事だからこそ、そこで食べる価値がある。思うに、この非日常こそ求めているものなのだ。普段の日々から抜け出して、理想的な日々を追い求めているのだ。今日というこの日常は違うけど、日常の理想像はまるでない。これからも求めるだろう。理想を追い求めるために。

しおり:文学は実学である(荒川洋治)

先日購入した本。詩作家荒川洋治先生のエッセイ集。多数の作家作品を自由に謳歌する。文学に触れることのない私には初めて知る作家ばかり。古くは大正時代、おおむね昭和時代、いくつか平成といった感じ。旅行の話も多い。「「銀の道」を行く」はスペイン西部の古道を辿る。

 

表題:「文学は実学である」もエッセイ集の中に収録。鋭い文章で鮮やかに世界を描写する数々の作品に溢れている。その2、3も拾わずにいながら、役に立たないと決めてしまう。人の人生を大きく変えるほどの激しい力があるにも関わらず、空理空論とみなして軽んじられている。

 

紹介された作品をいくつ知っていただろう。せいぜい夏目漱石くらいだろうか。田山花袋梅崎春生高見順も知らない。ドン・キホーテも読んだことない(行ったことはあるが)。それ故どれも興味を誘う。読んでみたくなった。

 

感受性も、情動の表現も薄いと感じる今日このごろ。鮮やかな文章に触れ続けることでもう少し豊かに表現できるだろうか。エモいという言葉に集約し、140字以内で終わらせてしまうのでは決して養われない力を求めて読んでいる。

6月下旬:ちょっとそこまで

家にいると脳内がうるさいので外に出てしまう。あてもなく電車に乗って1時間揺られれば東京駅にたどり着く。平日の昼、丸の内はせわしなく働くカッターシャツの人たち。丸善に入るも購入は無し。いつも通り棚に並んだ本を見てたが、突然無気力に襲われた。仕方ないので出ることにした。

 

丸善は良い。立地から言って、ビジネス上で何が注目されているのか良く分かる。理工書では統計や機械学習、データサイエンスなんかが流行っているらしい。向こう100年くらいは流行り続けるんじゃないか。統計は少しやったがそれ以外は触ったことも無い。多少は修めておきたい気持ちもあるが、きっと難解さに負けて開かなくなるだけだ。

 

昼は結局構内の立ち食い蕎麦屋でうどんを食べた。弾力のない麺とレトルト味のカレー。ツユが味を決めてるんだと言わんばかりのかけうどん。悪くないな。金を払えばより良いごはんを食べることは出来るだろう。気取った店に一人で入るのは忍びない。店の雰囲気に押されてしまうような気がする。気になって無い訳では無いのだが、一人で入る勇気が無い。そうやって通り過ぎた店は何件もある。財布に十分な金が入っているだけでは駄目なのだ。

 

電車に乗って帰ろうか。ラッシュアワーの前に電車に乗りたい。夕刻になって学生が多い。もう10も離れているのか。私は10年間何をしていたのだろうか。こういうのを後悔と称するのだろうか。後悔だけはしたくない。いくら歳をとろうとも。

読書灯:孤独地獄

芥川龍之介の短編である。青空文庫に収録されており、誰でも読める。大叔父の体験を母から聞いた話。放蕩の限りを尽くしているようにみえる僧侶と出会う。名は禅超。ある晩に語った内容だ。大別して3つに分かれる地獄のうち、2つは地下深くに在るが、1つは地上に漂うように現れる。それは孤独地獄という。孤独地獄に陥れば、どこまでも続く地獄の中にとらわれて、逃れられない地獄で苦痛に苛まれる。僧は自身が孤独地獄にあるという。あまりに長い苦痛におかれ、ついには死をほのめかす。

 

人は誰かと関わりを持つ生き物で、孤立や孤独を忌み嫌う。無論、いつ何時も誰かとおしゃべりに興じているわけではない。しかし、人が、心の部分で、他者と繋がりを持てないとして、誰も私の一切に興味が無いかのように思える日々が滾々と続くならば、耐えがたい苦痛に感じる。終わり無き苦しみという懲罰を与える空間が、目前に広がっている世界。まさに地獄である。

 

地獄で受けた創傷は癒せるのだろうか。烙印は消すことができない。心に出来た大きな歪みの痕跡も、その人自身の力で治癒することは叶わない。本能的に拒否した孤立や孤独に苛まれた人間を救う方法は、おそらく存在しない。自分自身がそうであると認め諦め受け入れるか、そうでなければ「終わらせる」以外に無いのだろう。

 

芥川はこの僧侶に同情を覚えることを否まない。それは芥川自身もまた、「「或意味で孤独地獄に苦しめられてゐる一人」」である為だ。退廃的な精神状態の最中に自殺した芥川。彼に同情を注ぐことに躊躇するだろうか。だが「同情」などでは決して孤独地獄の渦中にいる人を救い出すことは出来やしない。そう理解するのは、私自身「孤独地獄」に苛まれているからなのかもしれない。

本棚 6月8日

先日本屋に赴いた。3冊しか購入してないがレジで1万円といわれておどろいた。どうも寝不足で判断能力が低下していたらしい。購入動機でも書いておく。

 

公害防止管理者大気関係攻略問題集

 

仕事上こういった資格を取ることが求められる。参考書はあるが過去問をベースにした問題集を持っていないため購入。いわゆる公式問題集より2千円安かったが、それでも3200円した。会社で補助してほしい。

 

・貧乏人の経済学 もう一度貧困問題を根っこから考える(英主題名: poor economics)

A.V.バナジー&E.デュエロ/山形浩生

 

貧困問題には興味を持っているだろうか。資本主義経済である以上貧困層は必ず発生するが、経済学的にみた貧困の実態は思ったより不明瞭らしい。2019年のノーベル経済学賞を受賞した著者らは、こうした現状を鑑みて貧困層への実証的研究を試みその具体像を描き出した。資本主義経済では誰しも貧乏に陥る可能性がある(あなたの会社が突如倒産し、誰もあなたを雇いたがらないかもしれない)。あなたがこの研究の対象になりうる以上、手に取ってみても損はないかもしれない。

 

・文学は実学である

荒川洋治

 

文学を修めた経験はない。従って文学がどういうものか見当もつかない。文章の科学かな。思ってみれば文章を書かないで生活できる日は無い。そこに飛び込んできたのが本書。文学は実学なのか。開いてみるとただのエッセイだ。何も論じられていない。全部読めば分かるだろうか。浅はかな考えでレジに連れて行った。

6月初旬の東京湾

 

深夜、ちょっとどこかに、と思って海ほたるまで来てしまった。深夜は道が空いているし、人も少ないからとスイスイアクセル踏めば1時間と少しで到着する。がら空きの駐車場に車を停めて、エスカレータに乗って5階は展望デッキ。旅行客数人が写真を撮っている。私は邪魔にならないように隅の方から海を眺める。

スカイツリーは頭の方がぴかぴか光っているだけで、あまり良く見えない。 ランドマークタワーもかすかに見えるだけだった。東京駅か、品川駅の方は構想ビルの最上階が赤く光っていた。東京は思っていたより遠そうだ。

反対側は千葉。市川から木更津、富津のあたりまで工業地帯となっている。大きい煙突が何本もある。白い煙が絶え間なく出ている。高層ビルらしきものは見当たらない。西と東でこうも違うらしい。見上げると雲に覆われており、月は明かりが隙間から漏れているだけだった。晴れればまた違った景色になるかもしれない。

少し眠くなったので車の中に戻って少し眠った。1時間もすれば空は明るくなっている。私は休日だが世間は平日。通勤時間より前に帰ろうと4時半には出てしまった。帰り道の16号で日の出を迎えた。

8時も過ぎれば布団に入る。あまり良く寝れない。夢の中では運転席に座る自分を助手席で見た。見たい景色がまだあるようだった。