胡蝶之夢

こんな夢を見たい

読書灯:孤独地獄

芥川龍之介の短編である。青空文庫に収録されており、誰でも読める。大叔父の体験を母から聞いた話。放蕩の限りを尽くしているようにみえる僧侶と出会う。名は禅超。ある晩に語った内容だ。大別して3つに分かれる地獄のうち、2つは地下深くに在るが、1つは地上に漂うように現れる。それは孤独地獄という。孤独地獄に陥れば、どこまでも続く地獄の中にとらわれて、逃れられない地獄で苦痛に苛まれる。僧は自身が孤独地獄にあるという。あまりに長い苦痛におかれ、ついには死をほのめかす。

 

人は誰かと関わりを持つ生き物で、孤立や孤独を忌み嫌う。無論、いつ何時も誰かとおしゃべりに興じているわけではない。しかし、人が、心の部分で、他者と繋がりを持てないとして、誰も私の一切に興味が無いかのように思える日々が滾々と続くならば、耐えがたい苦痛に感じる。終わり無き苦しみという懲罰を与える空間が、目前に広がっている世界。まさに地獄である。

 

地獄で受けた創傷は癒せるのだろうか。烙印は消すことができない。心に出来た大きな歪みの痕跡も、その人自身の力で治癒することは叶わない。本能的に拒否した孤立や孤独に苛まれた人間を救う方法は、おそらく存在しない。自分自身がそうであると認め諦め受け入れるか、そうでなければ「終わらせる」以外に無いのだろう。

 

芥川はこの僧侶に同情を覚えることを否まない。それは芥川自身もまた、「「或意味で孤独地獄に苦しめられてゐる一人」」である為だ。退廃的な精神状態の最中に自殺した芥川。彼に同情を注ぐことに躊躇するだろうか。だが「同情」などでは決して孤独地獄の渦中にいる人を救い出すことは出来やしない。そう理解するのは、私自身「孤独地獄」に苛まれているからなのかもしれない。