胡蝶之夢

こんな夢を見たい

7月下旬:勝浦

雨が降りやんだと思ったらそのまま梅雨が明けた。夏空に入道雲が重たく描かれている。もう何度も見てきた夏の光景。今年は最も退屈な夏になりそうだ。厳しい日差しを突っ切る電車に乗って、勝浦に赴いた。

 

その日は千葉駅で昼を摂った。なんでもよかったのでエキナカで売っていた弁当を購入した。定型文を卒なく口走る店員。型にはまった弁当と型にはまった接客は何故か相性が悪い。型にはまった味はしっかり旨い。貧乏舌は得である。鈍行に乗って2時間以上。車内で口を開けて寝ていたが、マスクをしていたので情けない寝顔を見られることは避けられる。マスクの無い世界に戻ってしまったらもう車内では寝られまい。

 

夕時に着く。駅の目の前にあるレストランにすぐ入り、天丼を食べた。エビは身の質感がしっかりしていて食べ応えがあり、アナゴの身は肉厚でこれまたうまい。タレは控えめにかかっていて食材の味を邪魔しない。会計を済ませて宿に行く。

 

荷物を置いたら海へ出かける。大きいホテルが海水浴場の目の前にあり、海に浮き輪の滑り台が浮いていた。切り立った崖にはコンクリートの法面。少し山の方へ眼をやるといくつかの大きい建物が顔をのぞかせている。

 

ちょっとした丘には遠見崎神社はひっそりと佇む。参道の階段から街を一望できたので、足を休めて見下ろしてみた。人の声、車の音、雨戸の閉める音がする。船の汽笛も聞こえてきた。おそらくずっと変わらない風景が、そこから見えた。

 

町おこしと生活と。活気を保とうとする努力を感じられる。その街の住人は、賑わいのある街を望んでいる。時にそれが、かけがえのないものと引き換えになったとしても、街の未来のために受け入れる。私にはどうもそれが、この街に不要なものな気がしてならないとしても、街の人々の選択は謙虚に尊重しなければならない。浮き輪の滑り台で遊んできたらしき少年の、楽しそうでたまらない笑顔とすれ違う。守られるべきは、これであろう。